本研究グループは,生きた組織内部の剛性分布と分子分布を対応付けるex vivo SIM-AFMを開発しました(図3)。この測定技術は,組織スライスを生きた状態で維持できる生体外培養技術(ex vivo培養技術)(※4),分子分布を高解像度で取得できる正立の構造化照明顕微鏡(SIM)(※5),試料表面を探針で走査することにより詳細な剛性分布を取得できるAFMを組み合わせることで,培養下で生きている組織スライスの明瞭な分子分布と同じ位置の剛性分布のペアを取得することを可能にしました。この測定技術をマウスの皮膚に応用して,皮膚組織の内部の剛性分布が成長過程でダイナミックに変化することを突き止めました。
図3 マウス皮膚の剛性分布は成長過程においてダイナミックに変化する
測定の結果,マウスの皮膚は外層の表皮,内層の真皮,毛包等複数の組織構造からなり,それらに対応したとても不均一な剛性分布を持つことが分かりました。また,誕生前後で皮膚組織内部の剛性は顕著に増加しました。さらに,誕生前や生後間もないマウスの皮膚は表皮より真皮が
やわらかいのに対し,成体のマウスではその関係が逆転するという結果が得られました。一方で,今回の計測では立体組織をスライスにして計測しているため,得られた皮膚内部の剛性分布やその制御機構については今後さらに検証が必要です。
さらに,本研究グループは,どのような分子が剛性に寄与しているかを調べる実験を行いました(図4)。コラーゲン分子は肌の弾力に重要と考えられています。このコラーゲン分子を分解する酵素を加え,皮膚組織の剛性分布の変化を観察しました。
図4 コラーゲンは皮膚において剛性を担う主要な構成要素である
酵素を加えた1時間後は,加える前よりも
やわらかくなっていました。このことから,皮膚においてコラーゲンが剛性を担う主要な構成要素であることが明らかになりました。コラーゲンの量は,剛性と相関しており,また,出生後のマウス皮膚の真皮で急速に増加することが知られています。したがって,出生前後における真皮の剛性増加は,コラーゲン分子の量に起因すると予想されます。このような皮膚内部における分子由来の剛性分布が,肌の感触の違いを生じさせる可能性があります。