器官形成やがん形成などの多細胞の三次元動態を分子・細胞・組織のスケールから統合的に解析するため、新しい計算機シミュレーション手法を開発しています。これらの手法を器官形成やがん形成などの現象に適用することにより、多数の分子・細胞から成る組織・器官の動態を網羅的・定量的に予測することを目指しています。
多細胞の3D動態をシングルセル解像度で記述する3Dバーテックスモデルの開発と応用を行っています。本モデルは発泡体の動態を記述する粗視化モデルの一つで,その原型は1956年頃に提案されました。1990年頃に泡動態の解析に用いられ、2004年頃には本多久夫先生らにより生命現象へ応用されました。筆者は、2010年から安達泰治先生(京大)と笹井芳樹先生(理研)の共同研究の中で開発を始め、その後の試行錯誤を経て、器官形成やがん疾患などへ適用できる汎用的な手法を開発するに至りました。開発中のシミュレータはオープンソース化の準備を行っています。シミュレータにご興味のある方はご連絡ください。
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試験管の中で幹細胞を培養し、器官様の三次元的な組織(オルガノイド)を作ることで、胚発生やがん疾患における多細胞の振る舞いを観察しています。遺伝子改編技術や蛍光イメージング技術などを駆使し、自己組織化における多細胞ダイナミクスの分子生物学的・細胞生物学的・生体力学的な理解を目指しています。
原子間力顕微鏡(AFM)や電動マニピュレータなどを用いて、作成した立体組織の局所に対して力学的・生化学的な摂動を加え、その応答を観察しています。この摂動解析により、自己組織化の鍵となる分子-細胞-組織間のスケールを超えた相互作用の理解を目指しています。
力学シミュレーションや立体組織培養実験で得られた複雑なデータや知見に基づいて、多様な多細胞動態の素過程を抽出し、その定式化を行っています。これにより、胚発生やがん疾患などの幅広い多細胞ダイナミクスに共通した原理の発見を目指しています。
私たちは、多能性幹細胞の自己組織化を利用して、生体における神経発生の重要な特徴を試験管の中で再現する三次元組織「脳オルガノイド」を作成しています。この脳オルガノイドに対して物理的・化学的な刺激を与えた際の応答から、脳発生における多細胞動態を理解・制御することを目指しています。
脳や皮膚、胚は上皮と呼ばれる細胞が層となった組織から形成されています。発生過程において、この上皮構造が単層から多層へと、細胞の力学的作用によって変化していきます。この細胞達のダイナミックな動きを、三次元バーテックスモデルを用いて解析し、その層形成の仕組みの理解に取り組んでいます。
生体内では生化学因子の濃度の違いによる細胞の増殖・運動・分化・代謝などの制御を通して発生過程の進行や生体環境の恒常性維持などを実現しています。この制御機構を理解するため、組織内における生化学因子の輸送に着目し、濃度勾配のでき方の定量的なシミュレーションに取り組んでいます。